校長室便り_archive

校長室便り⑤

  • 2023年08月23日
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 檄(げき)が飛ぶ
~甲子園が教えてくれたこと~

 待機。蔦(つた)が這うその壁の大きさと歴史に圧倒されながら、甲子園14号ゲートで入場を待つ生徒たち。暑い暑いと聞き及んでいた甲子園の地もこの日ばかりは花曇りとなり、時折、差し込む太陽がいつもの光の強さを教えてくれる。前の試合の終了を待ちながら、応援団の待機するテントには、生徒、保護者、教職員のみならず、県内外から集まった卒業生や近畿宮崎県人会の皆様達が、その時を静かに待っている。

 入場。薄暗く細い階段と廊下を抜け、光の差し込むスタンドの入り口に向かう。球場全体を目の当たりにし、生徒達は歓声というより、つばを飲み込む方が先だったような気がした。教職員や応援団リーダーの指示のもと速やかに配置につく生徒たち、全国高野連の担当者が宮崎県の応援団の一人一人に目を光らせている。近畿宮崎県人会の佐土原会長をはじめ、京都、兵庫県の宮崎県人会会長など、まさしく近畿全域からの県人会の方々とともに座席を陣取った私たちは、宮崎市長の清山様、宮崎県大阪事務所長の海野様、宮崎学園法人山下理事長、前佐藤校長など、ちょっとした面々である。
 試合前の公式練習が終わるとスタンドへ向かって野球部員と監督、部長が駆け足で近寄ってきた。応援団への挨拶のため、アルプススタンド前に立ち並ぶ。グレーのユニフォームはどこか都会の高校を彷彿させるユニフォームで、整列した雰囲気は県大会より更に成長した佇まいの勇姿であった。
 プレイボール。主審の手が上がり、河野伸一朗投手が第一球を投げ込む。攻撃の時にしか応援はできないので、河野投手のボールに応援団全員の目が集中する。ストライク。調子がよさそうな第一球目からのカウントである。初回表を無難に終え、裏の攻撃である。いよいよ応援団の出番が来た。吹奏楽部の十八番の「宝島」のパネルが応援団に提示される。1番打者のアナウンスが会場に響く、佐藤先生がタクトを振り下ろす。と、演奏するや否や1番打者の斎藤聖覇選手がヒットを放つ。ゆっくりした準備もなく、攻撃の応援が始まった。練習を重ねてきたが、スタンドでの応援は、どこかぎこちなく始まってしまった。しかし、回を追うごとに少しずつ一体感を増していくミヤガク応援団。
 ところが4回表、相手チームに2点を先制されてしまう。応援団自体も何となく少し意気消沈している気配も感じられた。4回表の相手チームの攻撃が終了し、ミヤガクの攻撃となる。その瞬間、県人会の方々が座っている後方スタンドから、大人の声で「宮崎がんばれ! 元気がないぞ! もっと頑張れ!」という檄(げき)が飛んだ。応援団の前方に陣取っていた生徒たちも、その声の大きさと気迫にびっくりしたのか、ほとんどの生徒が声のした方向を振り返った。だが、この一言で、応援団一人一人に、何とも言えない緊張感と一体感が生まれたのである。生徒も、教職員も、保護者も、県人会も、卒業生も、みんなが一体となっていく瞬間であった。4回裏の攻撃が始まる。そこからの応援は、それまでとは違って、一人一人が仲間を信じて、グランドにいる野球部を信じて送る声援へと変わっていく。その檄がグランドにいる選手たちに届いたかどうかは、定かでないが、先制された裏の回に見事、5点を取り逆転を果たしたのであった。

 「宮崎がんばれ! 元気がないぞ! もっと頑張れ!」

 あの檄は、何だったのだろう。もしかすると、県人会の方が発した声ではなかったのかも知れないが、あの声の主は宮崎県を愛している方だと信じたい。
 仮に、県人会の方だとすると、宮崎の地を離れ、大阪、近畿という大都会で長年生活し、様々なことを乗り越えてきた宮崎県人の“誇り”ではなかったのだろうか。その声の大きさと迫力は、宮崎の地を離れて暮らす、郷土宮崎を愛するすべての方々の思いを代弁していたような気がしている。宮崎から遠く離れた近畿甲子園の地に、故郷にある野球部が、高校生が集い、一体となって宮崎県の代表チームを応援している。その喜びをかみ締めながら、これまで力強く生き抜いてきた人生を表現する檄であったように感じている。とにかく、私にとっては心震わせる言葉であったことは間違いない。

 試合終了。7-9で惜敗はしたものの、得点されては取り返すミヤガクらしい粘り強さと爽やかなプレイは、アルプスを埋め尽くしたみどり色の一つ一つの輝きとともに9回まで途切れることなく続いた。

 野球部の甲子園出場という夢が現実となり、夢は実現できることを示してくれました。応援に行けた、また行けなかった生徒も教職員も保護者も卒業生も、その夢に乗せてもらい甲子園まで連れて行ってもらいました。夢は実現できることを体現してくれた野球部の甲子園での活躍を見た生徒たちは、ぜひ自分の夢と重ねて欲しいし、自分の夢を実現させてほしいと思う、野球部の諸君ありがとう。
 生徒の皆さん。夢には終わりがなく、さらに続けて見ることができるのも夢なのでしょう。今の夢、そして新たな夢へ向かって一歩を踏み出しましょう。

 県民の皆様へ
 多くの応援と励ましをいただき衷心より感謝申し上げます。また、ご支援いただきました関係者及び県民の皆様に、心からお礼申し上げます。ありがとうございました。

令和5年8月18日
校長 押方 修

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